実質一人会社の社長報酬

税制改正


平成18年度の税制改正で、特に中小企業の企業経営に影響のある改正が行われています。
役員報酬・賞与の損金算入についての改正です。
具体的には、どのような改正なのでしょうか。


① 役員賞与の損金算入を一部認める
② 業績連動型役員報酬が損金算入できる
③ 「特殊支配同族会社(実質一人会社)」の社長報酬(給与所得控除額分)が損金算入できなくなる
(以上の改正は、平成18年4月1日以後開始する事業年度から適用されます。)


この中で、近年まれに見るひどい税制改正といえるのが、③の「特殊支配同族会社(実質一人会社)」の社長報酬給与所得控除額分)が損金算入ができなくなることです。
その内容は、次のとおりです。

「特殊支配同族会社(実質一人会社)」のオーナー社長の報酬については、給与所得控除相当分が法人において損金算入できないことになります。
「特殊支配同族会社(実質一人会社)」とは、役員および同族関係者等が発行済株式総数の90%以上を保有し、かつ常勤の役員が過半数を占める会社を指します。
ただし、次のような場合は、従来どおり損金算入できます。
 ・その同族会社の所得金額とオーナー社長の報酬の合計額の直前3年以内の平均額が年800万円以下の場合
 ・その平均額が年800万円超3,000万円以下でその平均額に占める社長報酬の割合が50%以下の場合
なお「特殊支配同族会社(実質一人会社)」に該当するかどうかの判定は、法人のその事業年度終了時点の現況によるとされます。


せっかく、5月1日から「会社法」が施行になり、会社設立が容易となり、経済の活性化が期待される中で、時代に逆行する税制改正です。


所得税において「給与所得控除額」を控除することと、法人税において必要経費算入することが、経費の二重取りであるとの批判からおきた税制改正です。
しかし本当に経費の二重取りなのでしょうか。
中小企業のオーナーの中には、身銭を切って事業経営をしている方がたくさんおられます。
また、サラリーマンであっても「給与所得控除額」ほどの必要経費を使っている人は少ないはずです。
したがって本来問題視されるべき点は「給与所得控除額」であるのに、その調整を法人税の所得金額の計算で損金不算入にしたことが、この税制改正のひどいところです。
「給与所得控除額」が多額であるのなら、「給与所得控除額」を縮小すればいいはずです。
または、「特殊支配同族会社(実質一人会社)」の社長の所得税の計算において、調整すればよいはずです。


個人(所得税)と法人(法人税)間の調整を図ったとされていますが、本当に個人と法人を税制上イコールにする必要があるのでしょうか。
本来、自然人と法人とは別のものであるため、税制が違うのは当然のことです。
今回の改正によって、イコールになったと思っているのでしょうか。
たとえば、青色申告特別控除の有無、交際費等の範囲、寄付金の損金算入、オーナーの保険料等、違いを上げればきりがありません。
そもそも、税制でイコールにしようとすること自体がナンセンスなのです。
いかにも、官僚が机上で考えた小手先の改正のように思えます。


いずれにしても、既存の中小企業に与える影響も小さくありません。
経済界や日本税理士会連合会等が、一致協力して改正要望を提出すべきです。


本来税制とは、大局的な見地で作られるべきだと考えます。